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「人と自然の豊かな関係性の再構築を」(要約)

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Panel Discussion on Green Role of Civil Society

 サンカルロス大学と日本建築文化保存協会が主催で、フィリピン・セブ島で行われた国際会議の全体テーマは「山の尾根から海面へ(From Ridge to Reef)」、参加したパネルは「市民社会の環境保全の役割」であった。国立インドネシア大学、フィリピン・サンカルロス大学、北海道下川町の方々と私たち計4組の発表が行われた。私たちは、「人と自然の豊かな関係性の再構築を」と題し、山や川との関わり、建築や集落への取り組みから以下の内容を発表する。

 

山から川へ

 水と森林資源に恵まれた四国山地において、経済的に植林、育林ができなく、森の循環が成り立たない森林状況を報告する。木材価格と大径木の価値が下落し続ける地元山側から観た森林産業構造の矛盾、集成材は30%さらにCLT15%という歩留まりの悪さの矛盾等に言及させていただく。

 山の多面的機能の一つ、豊かな森から湧き出る水は海へ流れる吉野川へと続き、流域を潤す。健全な物質循環が流域の豊かな自然の恵みをもたらしてきた風景と、吉野川の大洪水被害から守るために川の営みを知り尽くし、生態系を活かした様々な伝統的知恵や工夫を紹介する。280年間続く洗い堰の第十堰(写真2・3)、遊水地や日本最大の水害防備林、あらゆる災害を想定した住居の構え等を案内する。

 自然環境を維持するためには、環境の中で生きる当事者である住民の自治意識が礎になる。そして川と関わる住民と水や生き物を通して川遊びする子供達が学ぶ環境教育が、持続可能性を育んでいると報告する。

 

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 写真2・3:吉野川第十堰

 

地域の自然と関係性をつくる住まい

 流域における私たちの建築への意識を語らせていただく。自然乾燥の価値を活かした地場木材で、地域風景と暮らしの関係性が表されるよう力強く架構を組み空間をつくる(写真3)。 生活排水を浄化して水循環の構造を豊かに感じさせる庭空間からランドスケープにつなげる(写真4)。 緑を活かし快適な微気候を生み、空間のレイヤーを織りながら、室内環境に導く。地場の木材、土壁、石材等を使い、風景をつなげる(写真5・6・7・8)。 場所の潜在的魅力を読み、建築空間に際立たせ、心身を元気させる住空間つくりの取り組みを紹介させていただく。

 

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写真3:ぬき構造で組む再生住宅

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写真4:生活排水浄化水が庭を潤す

 

 

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写真5:風景の中の架構空間

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写真6:大きな2本の樹木の周りにつながる2世帯住宅

 

 

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写真7:木漏れ日広場が環境の中心となるオゥ・ポワヴル

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写真8:地場木材で組む架構で店舗の内外風景をつくる

 

環境の成り立ちを学ぶ集落調査

 最後に、日本の多様な地域に省エネ政策の画一化した対策が起こす地域との関係性喪失の懸念から、調査を始めた徳島県剣山系に散在する高地性集落の環境ポテンシャルを発表する。近年世界農業遺産に登録された地域である。多彩な自然の豊かさと地滑り等のリスクをあわせもつ土地で、土地のポテンシャルを活かしきった人の知恵と自然への感謝と畏怖を感じさせる集落世界である。信仰する山を背後に、水源涵養林で囲まれた集落は、地形の高低差によって生じる植生の多様性や気流、気温差を活かし、住民が分かち合う自立循環の環境が作られていた(写真9)。 住居は南面ではなく谷に開き、谷から立ち上げた敷地石垣と山を背にする建物形態で上下の気流を抑制し、山の風景を見渡せる快適な中心的な場をつくり、その縁側は多彩な暮らしの核空間となっている。

 

 以上、先人の汗が刻み込まれてきた地域遺産から大地の声を聞き、自然の摂理を知る。地域ポテンシャルへの眼差しを報告させていただく。

 

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写真9:剣山系の家賀集落

 

今後に向けて

 終了後、主催団体代表者の三宅理一氏から、以下の報告をいただいた。徳島の地域性がクローズアップされ、木質化、環境保全といった課題を介して、地域の豊かな風土に合わせた家づくりが大変好感を持って受け止められていた。今回の催しは東南アジアと日本をつなぎ、土地に根差した建築家の領分を改めて確認することに大きな意味があった。フィリピンではCommunity Based Design が政策的に進められ、UAP(フィリピン建築家協会)の方々もそうした方法論を探っているように見受けられた。

 

 

 

 

 

 

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